涙が武器なら笑顔は防御だ。だから笑うのはいい。でも涙なんて流したくなかった。武器になる相手じゃなくても、見せたくなかった。

「おまえ、それで辞めるって意味分からんわ」

複雑なんだよ、分かって欲しいわけじゃないんだよ、と胸の中で吠える。

「で、他に言いたい事は」

それなのに、鰐渕さんはもう通常モードだ。

「あ゛りまぜん」

痛いくらいゴシゴシと指で瞳を拭って精一杯声を出した。

「こするな、馬鹿」

止めたのは鰐渕さんの腕。

「泣くな、アホ」

引き寄せられて、胸の中で、

「ふざけんなよ、間抜け」

抱き締められていると気付く。

「なんでそんな事言い出したかしんねーけど、この店が好きなら辞めるな。認めてないって俺がおまえに言ったのか?期待してるから応えろと言ったか?だからおまえは馬鹿なんだよ、アホ」

馬鹿なの、アホなの、どっちかにしてよと回らない頭で思う。

「勝手に決めんじゃねーよ」

その一言を最後に、乱暴に鰐渕さんの唇が私に触れた。