その言葉に何にも反応できなくて、息が詰まりそうだった。

「辞めるな、そして今すぐ思いきり深呼吸しろ。返事はイエスだけだ」

気付いたのか、鰐渕さんは矢継ぎ早に言葉を並べて、私の足元は、もうグラグラだ。

「若咲?」


黙りこむ私に向けられた瞳は純粋に心配していて余計に苛立つ。

「…社交辞令はいりません」

この後に及んでよく憎まれ口が出たと思う。だって、なんなのよってずっと思ってる。私は拗ねた子供みたいに鰐淵さんを睨んだ。


「…なんだそれ?」

「私は期待に応えられないです。…だけど、認められない方がよっぽど辛いです」

『任せた事に後悔していた』
奈津美さんの言葉を思い出して唇を噛む。これ以上何も言いたくない。素直に辞めさせてくれればいいじゃないか、もう嫌だ。

「何の話だ?」


鰐淵さんは眉を潜める。

「勿論、仕事はキツいです。体力だってないし、要領だって悪いし、だけど私この店が好きです」


気が付けば涙が溢れ出していた。