子供の頃、女の子なら誰でも一度は「ケーキ屋さんになりたい」と口にした事があると思う。それの延長線上で今ここに建つ私には鰐渕さんは眩しくて、憧れた。
鰐渕さんも瑛ちゃんも優しい。そしてしなやかな人達。私もいつか、誰かの背中を押せる、そんな店を持ちたいと強く思った。


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それから何だかんだでチョコレートケーキが完成して、シーズンや店の人気に助けられて売れ行きは好調だった。

瑛ちゃんも約束通り食べにきてくれて、「美味しかったよー」とあの緩い笑顔をくれて、ほらね、言ったでしょとポンポンと頭を撫でる。


初めて自分が考えたレシピが形になって、それが店頭に並んで、誰かに想いを伝えたい子や、自分へのご褒美チョコや、特別な誰かへ意味を持って買ってくれる事にとにかく嬉しくて、きっと一生このレシピは作っていく、と思った。

それから、鰐渕さんに「えらかったな」と滅多に見ない笑顔を向けられると、ジワリと体が緊張して。
私は本当に唐突に。だけどストンと違和感なく、鰐渕さんに恋に落ちた。
違和感がなかったのは当たり前だ。多分気付かなかっただけでずっと惹かれてたんだろう。
それを認めれば、後は急速に想いは大きくなって、浮かれていたのだと思う。