「良かったね!」

奈津美さんは私の報告に残念そうな顔も見せず喜んでくれた。

「でも、正直不安です」

奈津美さんは頼りない私の背中を優しく叩いて「大丈夫だよ!わに君もついてるし、今までの頑張りが認められたって事だよ!しっかりね」と花が咲くように笑う。

私はその笑顔に何の疑いもなく、頑張ろうと思った。隠れた思いには気付かずに。


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それから数日はとにかく忙しかった。仕事が終わってから、大雑把なイメージを
形になるまで試行錯誤する。
眠りについたと思ったらすぐ朝。

大変だけど充実した毎日。

鰐淵さんと過ごす時間は増えて、毎日試作品を評価してくれることに感謝でいっぱいだった。

「…この配色は私は好きですけど。普通過ぎてインパクトがないですかね?」

「普通ってのは万人受けするって事だけどな。」

「んー…」

バレンタインデー、私が作るのは濃厚ムースとスポンジをショコラで包んだチョコレートケーキ。見た目にインパクトがなくて何を足すかで迷っていた。
余計な味は出したくない、贅沢なチョコレートを楽しみたい。だけど目を引く特別感が欲しい。作るからには沢山の人に食べてもらいたい。ここにきて、プレッシャーがのし掛かってきた私はつい立ち止まってしまった。