オーナー専用の部屋に入ると鰐渕さんは何か書類を書いているみたいだった。
「あ、の、若咲ですが」
「ああ、お前以外に誰がいる」
「…はあ」
一体なんの呼び出しだと、ビビる私に鰐淵さんはちらりと横目で見てから伸びをする。
「次のバレンタインデー、おまえ何か考えろ」
「え?…それって?」
鰐淵さんは顔を上げてイタズラっ子の様に笑った。
「嫌ならいい」
「ええっ⁉︎」
「心配するな。一人で全部やれとは言わない」
嫌ならいい、と言っておきながら鰐渕さんの口調は決定事項だ。JOUJOUは新作を殆ど出さない。唯一毎年JOUJOUオリジナルのバレンタイン限定商品をやっていて、今まではオーナーと奈津美さんが商品開発していたのに私で良いのか、と困惑する。
「やるのか?やらないのか?」
だけど、
「やります!」
やりたいに決まってる。
思うより先に返事をしていた私に鰐淵さんは口の端だけ上げて笑った。