それからちょくちょく瑛ちゃんは店に来た。仕事だったり、プライベートだったり。

「椎那っていうんだ?しいちゃんって呼ぶから瑛ちゃんて呼んでね?」

イヤです、と全面に表情に出しても知らん顔で寄ってくる瑛ちゃんに、なんだかなーと慣れ始めたのは数ヶ月経ってから。

流石にこの辺りでこの人が目立つ人種だという事は理解していたし、毎回絡んでくるから妙な噂が立つのを警戒したけど心配するような何かは何もなかった。ただの勘違いだ。何故なら瑛ちゃんは誰にでもこんな態度だから。それに途切れる事なく彼女がいた。天性の女好きである。それなのに、一線を引いたような薄い膜のある何かで言い寄る女性をあっさり躱す、そんな人。

「しいちゃんさー、営業スマイルが上手だよね」

「褒めてないでしょ」

「褒めてるよー?根性ある証拠だね」

「根性なんて素敵なもの、歳を取る度に削られて図太さしか残ってませんよ」

「はは、枯れてるー。若い子が言う言葉じゃないよそれ」

瑛ちゃんがケタケタ笑う。ほんとの事だと無視しておいた。

「わにちゃんにあんだけ怒鳴られても辞めないんだから根性あるよ」

「心はとうに折れてますが」

「頑張ってる、って。」

「え?」

「わにちゃん、しいちゃんはよく頑張ってるって。」


え、と固まる私に瑛ちゃんは、ポンポンとあやすように頭を撫でた。

「わにちゃんさ顔可愛いのに、口悪いから誤解されやすいけど、ちゃんと見てるよ」

そのなんでもない口調に息が止まりそうになる。

「しいちゃんのこと、ちゃんと見てるよ」