君に捧げる想い 〜birthbywhiteday〜

何で全面的に上から目線なんだよ。

「ネグレクトって虐待知ってるか?」

「ニュースで聞いたことがある」

育児放棄って奴で、暴力がないかわりに無視され続ける虐待。

それが一体何の関係がある?

オレは中原に振り回されているように思った。

「あげははそれを受けて育った。今の先生の家にくるまでな。そこの女は知ってんだろ?」

愛里香を見ると、一度だけ頷いた。
「周りが気づいた時は、あげはちゃんはすごく痩せてて、もう少し遅かったら栄養失調で危なかったって。それで、両親とも親権を放棄したから今のお家に引き取られたの」

あげはの過去にそんなことがあったなんて。

オレは何も言えなかった。

「あげはも色々努力したんだろうけど、親はあげはを見ようともしなかった」

そういえば、別れを告げられたとき、ネグレクトという言葉を確かに使っていた。

「だからあいつは何でも人並み以上にできるし、人の表情から感情を読み取ることができる」
「頑張ってもダメだと思えば、あげはは、すぐに諦めるクセがある」

中原の言葉がオレに刺さる。

「あげはに一つだけでも諦められないものがあればって思った。お前がそれだと思ったんだけどな」


中原は肩を落とした仕種をする。

「中原、まだ間に合うだろうか?」

「お前次第だ」

あげは、オレはお前を諦めない。

必ず、お前のそばに戻るから

オレは決意を固めた。

「これは返す」

中原にメモを返した。

「オレの中にあるあげはの記憶からあげはを探して見せる」

中原はそうかというと笑った。
卒業式の日もあげはとは会話もしなかった。

中原と今の親と一緒にいるところだけを見た。


中原はもうフランスに行くという連絡が本人からきた。


今日は、3月14日ホワイトデーだ。

オレはあげはに電話をかけた。

繋がってくれ。

10回程、コール音が鳴った後に、

「はい…」

あげはの声が聞こえた。

「あげはか?」

「うん」

久々に聞いたあげはの声だった。
「あのな、今日、ホワイトデーだろ」

「うん」

「お返しをしたいんだ。今日、会えないか?」


返事をもらうまでの数分、それが何時間にも感じられた。

「先生と出かけるから何時に帰ってくるかわからないよ」

「それでも良い。ずっと待ってるから。あの公園に来てくれ」

指定した場所は、オレ達が最初にデートをした所だ。

家から近い場所だったけど。

あげはとちゃんとしたデートをした場所だ。
あげははずっとニコニコしていた。

作って来てくれた弁当が美味くて驚いた。


「遠足みたいだねぇ」

と言ったあげはと笑い合ったこと、

あげはが知らない子供たちと遊び始めてそれにオレも混じって遊んだ。

砂場で遊んだのなんて何年ぶりだっただろうか。

あの日だけは、愛里香のことを忘れられた。

あの日にオレはあげはを好きになったのに

今まで何をしていたんだろう。

もっとあげはとの時間を大事にすれば良かった。
過去は変えられない。

今できるのは、過去から学び繰り返さないこと

あげはを大事にする。

これからはあげはのことを想うから。

だから来て欲しい。

オレは祈り続けた。

来てくれるかどうかはあげは次第なんだ。


公園に来てから、どれだけ時間が経っただろか?

日も暮れて、真っ暗だ。

ベンチの傍の街灯だけがオレを照らしていてくれた。

三月とはいえまだ冷える。

コートのポケットに手を入れて、寒さを凌いだ。
また何時間か経った。

あげははまだこない。

ケータイの時計を確認すると、11時を表示していた。

もう来ないかもしれないと絶望が襲って来る。

寒さと悲しさで歯ぶつかりがカチカチと鳴った。

「ふっ…うぅ…」

景色がぼやけてきた。

鼻の奥が痛くなってきた。

もう後悔しかなかった。

あげはのことをもっと大事にすればよかった。

今までの馬鹿なオレを殴ってやりたい。
涙がボロボロと落ちて地面を濡らす。

「あげは…」

何度呟いてもあげはが返事をしないのは分かっていたが、呼ばずにはいられなかった。

「まだいたの?」

声が聞こえた。

誰かなんて分かっている。

「あげは」

顔を上げるとあげはがいた。


黒い短い丈のワンピースにグレーのパーカーを重ねて着ていた。

青いニーハイとスカートの間にある生足が街灯に当てられてなまめかしく映った。

オレと一緒にいたころはそんな格好しなかった。