不思議。


そんなことをする人には見えないのに。



一本一本が細く、うねりのある柔らかそうな髪。

それを短く切って、明らかに爽やかな印象を受ける。



スーツはきっちり着て、革靴も光るほどにピカピカで。

仕事ばかりしてる真面目君みたいなのに。




変な感じはしたけど、とにかく食べ物をくれるんなら何でもいい。

笑顔でうんと返事をしようとした時、

頭がふらっとしてよろけてしまった。



「ちょ… 大丈夫!?」




支えられて、私は倒れないように黒のスーツをつかんだ。


その腕は想像以上に固くて太くて、


この腕に抱かれるのは気持ちいいだろうなと思った。




私はそう身長が低いほうでもないけれど、


この彼にはこんなにも見下ろされる。


つかまっているせいで、包まれているような錯覚を起こした。



風の吹き抜ける寒い駅は、


相変わらずざわついていた。