「別に」

「俺相手に隠し通せると思うか。それこそ100億年早いんだよ」



ここまで分かりやすく自分の感情をさらけ出しておきながらこの期に及んで誤魔化そうとする妃那の頭をはたく。

「殴ることないでしょ!」と言った妃那の声も覇気がなくて、

俺はため息交じりに「どうした」と今度はその頭を撫でた。

こういう時の俺の声は、おれ自身が驚くほど落ち着いた声音になる。



「あのね、たくみ」

「うん?」



たどたどしく話し出した妃那は、変にはっきり俺の名前を呼んだ。



「瑞樹先輩にね、デートに・・・誘われた」



ぼそり、と呟いた小さな声をカラスの鳴き声が攫っていく。

俯いていて、その表情は見えない。

───やっぱり。

その見慣れたつむじを見つめながら、内心そう思った。

今の妃那がこうして感情を露にするのが、瑞樹先輩絡み以外にあったらそれはそれで驚きだ。



「なんでお前喜ばねぇの?」

「なんでだろ」

「・・・驚いたとか?」

「それもあるけど、でもなんていうか」

「「すっきりしない」」



歯切れの悪い妃那の言葉に被せて言ってみたら、妃那はバッと目をまんまるくして顔を上げた。



「ブハッ、マヌケ面」

「ちょっと!あたし真剣に相談してるんだけど!?」

「何をだよ」

「何をって・・・話聞いてた!!?あたしはっ!!」



そこまで威勢よく怒鳴り、そして



「・・・なんだろ」



妃那は首をかしげた。

その様子に思わずまた噴き出してしまうと、「拓巳なんて知らない!」と今度は本格的に拗ねてそっぽを向いて帰宅路を歩き出してしまう。



「おい、待てよ!」

「信じられない!!拓巳のバカ!!!」