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シャワーを終えて制服に戻る。

鞄を背負って試合会場だった学校の校門をくぐった時、

そこにいた人影に思わず「なんでいんの?」と呟いていた。



「あたしを待たせるなんて100万年早いわ!」

「いや、そうじゃなくて」



ふん、と腕を組んでそっぽを向くのは逆光で顔が良く見えないがまぎれもなく俺の幼馴染で。

───いや、こんなムカツク口調の女がそうゴロゴロいたら困るんだけど。

俺はぽりぽりと頬を掻いて、もう一度「なんでいんの?」と問いかけた。



「ひどい!日焼け我慢して一日応援してあげた幼馴染にお礼もなく一人で追い返すつもりだったの?」



大袈裟にそう嘆いてみせる妃那に思わず苦笑する。

あぁ、帰り道コンビニで何か奢らせるつもりか、と。

けれど。



「夏乃と海斗君なんてとっくに帰っちゃったよ?

和也君も、萩君も、洋平先輩も、瑞樹先輩も、みんなさっさと出てきてたんだけど。

むしろ拓巳最後でしょ?こんな時間まで何してたわけ。

っていうか、そんなラストまで待ってたあたし超偉くな「妃那」



内容こそいつも通りなものの、いつになく饒舌(じょうぜつ)な妃那。

思わず俺は遮って問いかけた。



「何かあったのか?」



と。

妃那の言葉が止まる。

その間に俺は彼女の隣まで移動して、そこでやっと妃那の表情を確認した。

やっぱりなんかあった。

そう実感させる、迷いのある瞳。