瑞樹先輩だって、恋愛経験ゼロなわけじゃないはず。
その気持ちが何なのか・・・分かっているんだろう。
聞いていた俺でも、その言葉の奥に秘められた気持ちぐらい、分かる。
驚きや戸惑い、なんとも表現できない感情が喉の奥を支配して、
カラカラに乾いたように感じたそこからは声が出ない。
「おい、瑞樹!」
そんな固まる俺と対照的に、何故か慌てた様子の洋平先輩。
先輩は「悪いな、拓巳」と作り笑いを浮かべて俺に手刀をきると、
引きずるように瑞樹先輩を連れて行ってしまった。
なんなんだ?
突然の話の終わりに、俺は眼を白黒させる。
それから、大きく深呼吸をして赤い空を見上げた。
「そっかー・・・両思い、なんだな」
両思い、という音の響きが口から、耳から、全身にのしかかった。
妃那ー。良かったなー。と心の中で呼びかける。
清々した。
これで無理矢理協力させられる必要ないし、
晴れて妃那の初恋とやらは実ったわけだし、
気ぃ使って一喜一憂することも無くなるし、
大体俺はこういう結果になることを望んでたはずだ。
「───・・・くっそ」
なのになんでだ?
すっきり、しない。
(思いの外トントン拍子に話が進んだから驚いたんだと思う。たぶん)
(いやそうだ、絶対そうだ、そうに決まってる、そうじゃねぇとおかしい!)