「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」



しっかりと慣れた手つきで紐を結び終えた海斗は俺の顔を見るなり口を尖らせた。

そんなに顔に出てたか?と目を見開くと、



「なんて、カマかけただけだけど」



と音符マークが付きそうな明るいノリで答えられた。



「妃那に負けず劣らず素直だね、拓巳は」

「俺を嵌めて何が楽しい」

「これも歪んだ愛情表現さ」



その言葉につい思い切り顔をしかめてしまった。

これは素直だとか顔に出ただとかそういう問題ではなく条件反射、ってやつだけど。

そんな俺の表情に、耐え切れなくなったようにぶはっと海斗は盛大に噴き出す。



「まさか、うちのフォワードのエースがこんなヘタレだって誰が思うのかなぁ」

「ヘタレじゃねぇ!!」

「あ、エースは否定しないんだ」

「・・・」

「あははっ、ホントに拓巳は面白いや」

「海斗!!」



おなかを抱えながらひーひー言って笑う海斗。

ほら、向こうで夏乃が呆れてんぞ。と忠告したくなるが、今度は夏乃夏乃うるさくなりそうだから黙っておいた。

───残念ながら、このディフェンスの要は人一倍緊張しやすく、俺で必要以上に遊んで気を紛らわしているだけなのだが。

(それこそ誰が思うだろうか)



「ま、今日は妃那が来てるから負けられないね?」

「別に妃那は関係ねぇよ。点を入れるだけだ」



かぁっこいい、海斗はふざけた口調で口角を上げた。

そしてそのチェシャ猫のような笑みのまま「でもさぁ?」と言葉を続ける。



「案外、関係あるかもよ?」

「は?」

「だって、今の妃那は瑞樹先輩にベタ惚れでしょ?」

「ベタ惚れって古っ。久しぶりに聞いたぞ?」

「話はそこじゃなくって」



話を戻そうとするなんて珍しい海斗に、俺はなんだよと小さく笑う。