「・・・だから何?」
「瑞希先輩て、婿より嫁派なんだぁ。結婚式は和風かな、洋風かな」
悪いけど、もちろん夏乃の言葉なんて聞いてない。
ううん、むしろ聞こえない。
アウトオブ眼中、ならぬアウトオブ中耳。
頭の中では結婚行進曲をBGMに瑞樹先輩の“お嫁”って言葉が響いてるだけだもの。
「って、わぁッ!!」
あたしがぼんやりしてると、唐突にグイッと鞄を引っ張られて重心が後ろに落ちた。
「ほら。アンタの妄想癖はわかったから校門で立ち止まらない。迷惑でしょう」
朝早い時間とは言え、あたしたちの学校にも運動部が多い。
だから、朝練もあるのか別に登校してる人が少ないわけじゃなくて。
「ごめんごめん」と先に歩く夏乃を追いかけながら笑った。
夏乃は一瞬横目であたしを見て、それから大きくため息をついた。
「どうしたの?」
「いや、妃那は幸せだなぁと思ったの」
「そんなことないよ?だって、私まだ両想いになってないし」
「違うわ。脳内の話よ。あなたはいつも春よね」
そうかな?あたしは首を傾げた。
それでも無意識にスキップをしてしまうあたしは、
きっと自分で思っている以上に幸せだったに違いない。
こんな毎日が永遠に続くと、
疑うことなくただ無垢に純粋に願っていたのは、きっと他でもないあたしだったんだ。
そう気付くのは、遠くない未来の話───
(「あー、もう瑞樹先輩今日もカッコいい!!」)
(「恥ずかしいから双眼鏡片手に叫ぶのやめなさいよ」)
(「大丈夫、多分聞こえないから!」)
(「あ・・・ほら、拓巳君がすっごい呆れた顔してこっち見てるじゃない」)
(「え?夏乃双眼鏡なしで見えるの?」)
(「だってあたしの視力5.0だもの」)
(「ウソ!?」)
(「嘘よ」)
(「・・・・・・」)