「まったく朝からくだらないことで言い合っちゃだめだよ」
「くだらないって何よ!
拓巳の毒の刃に掛かって、か弱いあたしの心は深くふかーく傷ついたんだから!!」
「自分でか弱いって言う人に限って結構図太いわよね」
ハートマークを飛ばしそうなオーラで話しつつ、しっかりグサリと刺さる言葉を放つのは夏乃。
大和撫子と呼べる容姿をしながら、言う言葉には毒がどっさり盛られている。
拓巳は「どうだ」と言わんばかりに満足そうに笑いながら、あたしを見た。
「夏乃に賛成。お前のどの辺がか弱いわけ?お前の心臓は鉄製で毛が生えてるよ」
「拓巳も人のこと言えないけどね」
またもや“グサリ”担当、夏乃。
拓巳は「ぐはっ」と言いながら心臓を押さえる振りをした。
そんなバカな拓巳の背中をポンポン叩きながら「ごめんね」と謝る海斗。
もちろん、その笑顔に悪気なんてない。
(いや、夏乃馬鹿な海斗君に期待なんてしてないけどさ)
「おい、お前ら!あんまり長話してっと遅刻になるぞ!」
そんなあたしたちの会話を遮ったのは1つの声。
それはあたしが聞きたくて仕方なかった声で、
朝も(夢の中で)聞いた声で、
聞くだけで苦しくなるくらい嬉しい声。
「おはようございます、先輩!」
挨拶と同時にあたしは振り返って先輩の元に駆け出していた。
誰よりも早く瑞樹先輩の元に駆け寄ったあたしを見ながら、先輩はくすくす笑って「おはよう」と言う。
「お前相変わらず朝早いなぁ。朝練でもないのに」
「いいえ。早起き好きなんですよ」