「せんぱーいっ!」
あたしは、大好きな大好きな大大だーい好きな先輩の後ろ姿を見つけた。
考えるより早く口が動く。
あたしの声が届いたらしい先輩は、ゆっくりと、それでも優雅に振り返った。
あたしは「ここにいるよ」とアピールしたくて、体全体を使って先輩に向かって手を振る。
「妃那」
あたしを視界に捕らえた瞬間、嬉しそうに顔を綻ばせ、名前を呼んでくれる先輩。
優しい声音が、胸に静かに染み込んだ。
それが嬉しくて、胸の奥がきゅーんと甘い音を立てる。
あたしは勢い良く駆け寄って、そしてそのまま開いた腕の奥に飛び込んだ。
「先輩と朝から会えるなんて幸せですっ」
「俺も」
先輩の腕が背中にまわった。
ぬくもりと匂いに頭がクラクラする。
「でも妃那?一つだけ」
「え?」
真剣な先輩の声に驚いて顔をあげる。
先輩は、人差し指をあたしの唇に当てるとニッと口角をあげた。
あぁ、かっこいい。
そんな惚気に浸ってる中、あたしの目を捕らえて話さない先輩の口が次の言葉を紡いだ。
「二人きりの時は、なんて呼ぶんだっけ?」
「ッ!!」
あたしの反応に、先輩は赤くなるなよと笑った。
「ほら、妃那」
「・・・き・・・」
「聞こえないよ?」
ほらもう一回。
そう言ってイタズラっぽく笑う先輩は本当に意地悪だ。
あたしは自分の顔がますます赤くなるのを感じながら、それでも真っ直ぐ先輩の目を見つめて震える唇を動かした。
「み、瑞樹ッ!!」
また顔が熱くなる。
きっと今、私りんごみたいに赤いんだわ。
「正解」
そんな甘さと慈しみに富んだ先輩の声と同時に、顔がゆっくりと近づいてきた───