まぁ、いつものことだからこんなセリフもスルーしておくこととする。

だってどうせまた朝になったら俺のこと待ち伏せしてるわけだし。

実際昨日の今日で、妃那は現に今俺の部屋にいるし。

妃那はドンドン強い足音を立てながら部屋の隅に行くと、持って来ていた小さい鞄を手に取った。

・・・どうやら閻魔様のおかえりらしい。



「あたしの美容に対してなんも出来ないんだから、せいぜい瑞樹先輩との仲くらい取り持ちなさいよ!」

「へえへえ」



ドアを開きながら相変わらず高飛車で強気な妃那の声を受け流す。

ったく、さっきまでの素直な可愛さは何処行ったんだ?

そう思っていると、俺の適当な相槌が気に入らなかったのか、妃那が何かを叫ぼうと大きく息を吸ったのが分かった。



「一階」



俺は、それを遮って口を開く。



「一階、俺の母さんいるぞ?ドア開けたまま叫ぶと、聞こえると思うけどな?」



そう言ったら、妃那ははっとしたように開いているドアを見た。

妃那のヤツ、俺の両親にまで猫被ってるからな・・・いや、母親はなんとなく勘付いてるようだけど。

(前に笑いながら、「妃那ちゃんは頼りにしてるのよ」って言っていたことがある)



「拓巳のバーカ」

「知ってる」



悔しそうな顔で最後まで憎まれ口を叩く妃那。

それでも声が心なしか小さくなってるのは、素直で可愛いところだと思うけど。

そんな俺の笑いが更に気に食わなかったらしい。

やっぱり妃那はむーっと不機嫌そうに顔を歪めて。