「俺、明日の弁当ハンバーグがいい。デミグラスソースの」
「───は?」
「にんじんは止めろよ?あとグリンピースも。ポテトはオッケー」
「え?は?ちょ、ちょっと!?」
「ふりかけも付けとけよ。ぜってぇおかか。あと、おかずに卵系あったらカンペキ」
「拓巳、聞いてるの!?」
「弁当箱も恥ずかしくねぇのにしろよー」
「拓巳―っ!!?」
昨日の学校帰り。
別れ際に言われたのは全て明日・・・つまりは今日のお弁当リクエストで。
あたしの声もむなしく「じゃぁな」と至極満足そうに隣の家のドアに消えた拓巳は、
夕べ一晩メールも電話も繋がらず、結局真意が分からないまま朝を迎えてしまった───
「意味分かんない・・・」
ポツリ、と呟いたあたしの声は少し肌寒い朝の空気に吸い込まれていく。
手には、黒い小さな鞄。
その中には拓巳用のお弁当が入ってる。
自分と親のを作るついでだから別に作るお弁当が1つ増えるのくらいは手間じゃない。
でも。
なんだかんだリクエストに答えちゃうあたしもあたしだし、
こうやって早起きして拓巳の家の前で拓巳が朝練行くの待ってるあたしもあたしだし。
拓巳にお弁当頼まれるの、いつ以来だっけ。
高校に上がってすぐ、「恥ずかしいから止めろよ!」と拒否された気がするから・・・半年近いのかな。
「いってきまーす!」
ガチャリ、と目の前の家のドアが開いて、聞きなれた声が耳に届く。
ドアを開けてからつま先を地面にぶつけて靴を履くのは拓巳の癖。
そんな姿をぼんやり眺めていたら、「妃那?」と向こうがあたしに気がついた。
「遅いのよ、このバカ」
「遅いって・・・今日一緒に行く約束してたっけ?」