また怒りがヒートアップしてきたらしい妃那と、

あいかわらず無茶苦茶な理屈への怒りに一緒に声のボリュームを上げてしまう俺。

クラスメートたちが「もしかして電話の相手妃那ちゃん?」「痴話喧嘩?」とワラワラ寄って来たのを、

俺の代わりに海斗が追い払ってくれている。

そんな様子を横目で見つつ、俺がキレてどうすると冷静さを取り戻した。



「ったく・・・ホントになんもねぇの?」

『だってぇー、もーお礼言っちゃったしー』

「もう一回言えば良くね?」

『わざわざー、メアド聞いて言うことでもーないじゃないー』



妃那の口調に、思わず苦笑してしまう。

こうやって至る所を延ばして喋るのは大分いじけている証拠だ。

きっと今頃あごを机に乗せながら指先いじってるんだろうなぁ・・・なんて様子まで想像出来てしまう。



「ホントに、何もねぇの?」



努めて優しい声を出して問いかけると、



『なー『タオル!!』

「・・・夏乃?」



なーい、と言おうとしたらしい妃那の声を遮って、夏乃の声が電話口から響いた。

(そしてこっちでは、俺の“夏乃”というワードに海斗が反応する・・・このシスコン)

タオルって何だ?と聞こうにも、電話の向こうで勝手に会話が始まってしまって俺に止める隙間がない。



『そうよ、妃那!タオルがあったじゃない』

『え?』

『タオル、いつ返せばいいですかー?とか!』

『あ、確かに!さっすが夏乃!!ラッキーパーソン!』



急に妃那の声に生気が戻る。

タオルってなんだ?ラッキーパーソンってなんなんだ?

「おい?」と戸惑いがちに声を掛けると、『A型の拓巳には関係ないの!』と言われた。

カチン。