「っていうか、多分妃那ちゃんのこと知らないの学校中でお前くらいだぜ?」

「そういえばさっきもそんなこと言ってたな」

「あの・・・っ、よく拓巳のこと迎えに行ってて、それで気付いたらいつの間にか、みんなに名前を覚えて貰ってたっていうか・・・」



右手で左の髪を掻き揚げながら、俯き気味に事情を口にする。

よく言うよ、と言わんばかりに拓巳や海斗君、夏乃が呆れた顔をするがまぁかまってる暇はない。

この加藤先輩、余計なことを・・・!!

モテるのは認めるけど、それを敬遠する男だっていっぱいいるのに!

天沢先輩がその一人だったらどう責任取るつもりなのかしら。

恥ずかしさと戸惑いいっぱいの(ふりの)あたしのセリフに、天沢先輩は「ふーん」と頷いた。



「俺、あんま噂とか興味ないからなぁ」

「どうしてですか?」

「なんつーか・・・自分で見たものしか信じたくねぇ、みたいな」

「妃那もそういうところあるよね?」



え?と慌てて横を見ると、夏乃が天沢先輩に見えないようにウインク。



「だって天沢先輩だって私たちの学校でなら有名人じゃない?でも妃那全然知らなかったみたいだし」

「天沢先輩と妃那、案外似てるのかもね?」



こ・・・この双子、グッジョブすぎる・・・っ!!(見習いなさい、拓巳!)

あたしが「そういえば、カッコいい先輩がいるって噂あったけど天沢先輩のことだったのね」と夏乃に言うと、

思い返すように空を見上げていた天沢先輩も「そういえばめっちゃ可愛い子がよく学校に来る、って噂あったかもな」なんて苦笑した。



「ごめんね、妃那ちゃんのこと知らなくて」

「あたしこそ!天沢先輩のこと知らなくってごめんなさい」



まさかの謝罪にあたしも慌てて頭を下げる。

すると、



「じゃぁ、これから俺のこと知っていってくれる?」



なんて、爆弾発言をされた。

「え・・・」と呟くようなあたしの声は掠れて地面にこぼれ落ちる。

頭の中で反復。

“───これから俺のこと知っていってくれる?”

“これから”、これからって・・・言った?