そう言ってる間にも、拓巳の携帯が鳴る。
そして「ちょうど屋上近くにいるからこっち来るってさ」なんて衝撃の宣告を受けた。
どどどどどどうしよう!!
と、とりあえず化粧直さなきゃ!それから口に海苔ついてないか確認して・・・!!
なんで今日に限ってお弁当ふりかけなのよぉぉぉぉっ!!!
あたふたと鏡を取り出して立ち上がり後ろを向いたあたしに、夏乃が「朝からなんも変わってないよ」と冷静に突っ込む。
フェンス越しの海斗君が「そんな妃那初めて見た」と笑ったのが分かった。
「日生ー?田原ー?」
ちょうどその時、ぎぃっとさび付いた金属音が広い空気に響き渡って、
同時に朝聞いた低い声があたしの鼓膜を震わせた。
呼ばれたのは拓巳と海斗君なのに、ドキンと高鳴るあたしの心臓はめちゃくちゃ素直。
ぎぎぎ・・・と、屋上のドアといい勝負のぎこちなさで振り返ったあたしの視線の先にいたのは、
「あれ?もしかして今朝の?」
やっぱり、運命の王子様(もとい天沢先輩)だった。
「あ、あ・・・あ、朝は、ありがとう、ございました・・・っ」
それなりの距離があるというのに、あたしの声はフェードアウトするように小さくなってしまう。
だってドキドキして上手く呼吸が出来ないんだもん。
喉も、胸の奥も、いっぱいいっぱいで、酸素不足みたいに頭がくらくらしちゃう。
「どういたしまして」
ふわり、と微笑まれてもうあたし失神寸前。
夏乃に思い切り背中を叩かれて、なんとか意識を取り戻したけど。
「先輩先輩、こいつ俺の幼馴染なんスわ」
「日生の?じゃぁもう一人の子も・・・」
「あれは、俺の双子の妹です」
「へぇ、田原は双子だったんだ」
拓巳の隣に腰を下ろしながら、天沢先輩はあたし(たち)を見て優しく笑う。