「えーっと・・・?」

「え?妃那嬉しくない?

あの妃那が大嫌いな古典の授業担当の、妃那が大嫌いな太鼓腹デブだよ?」

「いや、あたしが聞きたいのは夏乃が何したかであってね?

っていうか、随分ひどい言い草だね」



夏乃はあたしを見て首を傾げ、それから黒い黒い魔女のような微笑で笑った。

効果音をつけるならば、“にやり”。



「知りたい?」

「イーエ、ケッコウデス!」



聞いたら三日三晩は悪夢を見る気がする!

聞きたくないわ、そんなもの。

(ちなみにこんな妹を持って海斗君は無事なのかって?)

(海斗君は「夏乃に弱味は見せられないよねぇ」の一言でのほほんと済ませちゃうのだ)



「妃那ちゃん、おはよー!!」

「あ、お、おはよう」

「朝から妃那ちゃんに会えていい日になりそうだな」

「何それー」



またあたしを追い抜いていく男の子。今度は自転車。

ありがとう、見知らぬ少年。夏乃の話題を逸らさせてくれて。

どうせまたあたしが「知らない」と答えるのを分かってるんだろう。

夏乃はもう何も聞かなかった。

ただ、やっぱり呆れた顔はしてたけど。



「そういえば!今日拓巳の運勢は?」

「拓巳君は・・・凶、だったかな?」



話を逸らすあたしの問いかけに、ほんのちょっと思い出す素振りをして夏乃は答える。

「凶!」と反復してからあたしはクスクス笑った。



「確かに朝一から拓巳にとっては不幸だったかもなぁ」

「妃那、また何かしたの?」

「またとは失礼な!」