「妃那ちゃん、おはよう!」

「あ、おはよー」



あたしを追い抜いていく男の子に挨拶され、反射で笑顔で手を振り返す。

夏乃に「今の誰?」って聞かれた。

素直に「知らない」って答えたら、心底呆れた顔された。

失礼な。

小さく心の中で憤慨していると、夏乃は表情をさらりと無表情に戻して突然あたしにむかって差し出した。



「話戻すけど。はいこれ」

「へ?」

「どうせ持ってないと思ったから、黄色いもの」

「・・・って言ったって・・・」



おずおずとあたしはその“黄色いもの”受け取る。

夏乃が真顔で差し出していたのは黄色い折り紙。

しかもご丁寧に両面黄色。

「これでもラッキーアイテムになるの?」と疑いつつ太陽に向けてヒラヒラさせると、

「じゃぁ返して」とまた夏乃に手を差し出されたから「もらう!」と即答した。

だってないよりはあった方がいいじゃない!



「ありがとう、夏乃!」

「どういたしまして」



鞄からファイルを取り出して、折り目が付かないようにしまう。

夏乃の占いに、夏乃から貰ったラッキーアイテム。

ご利益がないはずが、ない!

本当に今日はいいことがありそうだなぁ、なんて。

チャックを閉めて、肩に掛けなおす。

ミニーちゃんのマスコットキーホルダーについてる鈴が、リンと高い音を鳴らした。



「いいこといいこと・・・なんかないかなぁ?」

「作ってあげようか?」

「え゛」

「ちなみに、すでに1時間目の自習は決定だけどね」



───例えるならば、絶対零度。

そんな微笑みにあたしは凍りつくが、おそるおそる動かない唇を動かして尋ねる。