「ったくもう!さっさと行くわよ」

「へーい」

「だから、返事ははいだってば!!」



プンプンと怒りながら前を歩く妃那の背を笑う。

最近切った髪は前よりわずかに短く、サラサラと風に揺れる。

華奢な肩とラインの合わないジャージが妃那の手のひらまで隠して、

小柄な妃那はやっぱり可愛らしいと思う。

そしてきっと、言葉では怒りながらその表情はわずかに緩んでいるのだ。

そんな顔を想像して、俺は更に妃那にばれない程度に笑った。



───なんだかんだ言いつつ、こんな関係が嫌いじゃないのだ。



隣にいる。

側にいる。

それがどれだけ大切なことか、

どれだけありがたいことか、

どれだけ幸せなことか、

もう俺は身に染みて分かっていたから。



「で、お姫様。今日はどちらへ行かれるんですか?」

「河川敷にでもしよっかなぁ」



俺のあからさまな嫌味も通用しない。(わざとスルーしてるのかもしれないが)

“お姫様”というワードに少しだけ満足そうに口角を上げると、

妃那は空を見上げてそう答えた。

河川敷・・・か。

確かにこんないい天気の日にはちょうどいいかも知れない。

まぁ妃那と一緒ならどこでもいいんだけど、さ。(あ、今悪寒が・・・悪かったって。夏乃)



「でね、今日は、わざと知らない道に行くの!」

「・・・俺はカーナビ代わりか」

「あら、あたしが道に迷ってもいいって言うんじゃないでしょうね?」

「言うわけねぇだろ」



───コイツ、俺の気持ち知ってて遊んでんじゃねぇの?

一瞬だけ疑ってしまう。

妃那に頼まれて断るわけがないと、分かってるんだろう。

俺の否定要素が微塵も無い言葉に、妃那は満足そうに目を細めた。

けれど、俺の目をジッと見つめてすぐに怪訝そうな表情に変わる。



「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」

「さぁな」