「や、拓巳・・・見ないで・・・っ」



その目に捕らわれているのが恥ずかしくて、誤魔化すようにあたしはそう口にして視線を逸らした。

でも本音。

だってあたしの顔、涙で化粧もぐちゃぐちゃだもん。

きっと鼻も目も真っ赤で可愛くないし。

慌てて隠そうとすると、彼は「ばーか」と笑って、服の袖で荒々しくあたしの顔を拭いた。

それを、肌が痛むでしょ!と払う気にはならなかった。



「俺の前では化粧なんてしなくていいだろ」

「・・・」

「つーか俺の前で何隠す必要があるんだよ。

昔俺んち来ると不安でおねしょとかしやがってたし、

泥団子がド下手で、

実は昔は超絶オンチだったし、

化粧し始めはアイライナーで眉毛書きやがって、

ヤンキーメイク手本にしやがってたこともあって、

そもそも俺は妃那のスッピンだって知ってるし、

ジャージで腹筋する姿だって知ってんだ」



あたしの恥ずかしい過去を次々と笑いながら暴露する。

それに対してあたしが無言で睨みつけると、

拓巳はフッと頬を緩めて笑った。

その優しくて暖かくて慈愛に満ちた顔を、あたしは初めて見た。

溶けそうなくらい熱くて甘い声を、あたしは初めて聞いた。



「───それでも、そんな妃那が好きだ」



また、だ。

拓巳の言葉を聞くたびに、瑞樹先輩と違う想いが胸の奥から溢れてくる。

泉から次々沸き出でるその想いは、

あたしの瞳から零れ落ちていく。



「お前が瑞樹先輩を見ていた以上に、俺はお前の全てを見てんだよ」



ぽろり、とまた涙が零れた。