ピシャンッ



聞きなれた引き戸の教室のドアが閉まる音。

それが今は、空気を引き裂くように大きく響いた。

使われていない教室の中には机も椅子もない───きっと、どこかの出し物につかわれているのだろう。

そんな見慣れないいつもいる空間はどこか異次元のようで、

遠くのざわめきさえあたしの耳には届かない。

教室に響くのは、

荒い自分の呼吸音と、拓巳の息遣いだけで。

繋いだ手は少し汗ばんでいたけれど変わらず熱く、

大きくて骨ばった手に包まれたあたしの手は、じんわりと痺れていた。



「───妃那」



名前を呼ばれてビクッと体が跳ねる。

拓巳は振り返ることなくあたしの名前を呼んだ。

振り返っても、きっと逆光で顔は良く見えないだろうけど。



「何よ」



ばれない程度に大きく深呼吸して、普段と変わらないよう強気に答える。

震える声に拓巳が気付かないはずがない。

だけど、あたしが拓巳の震える声に気付かないフリをしたように、拓巳だって気付かないフリをするんだろう。



「悪かった、な」

「え?」



しばらく間を置いた後に、かすれそうなくらい小さく呟かれた歯切れの悪い言葉。

思わず聞き返した。

何を謝られているか、理解できなかったのだ。



「その、突き放したりしておいて、今は勝手に連れてきたり、して・・・」