「拓、巳・・・」
耳に届いた泣きそうな妃那の小さな声にも、
すぐに応えることが出来なかった。
自分の気持ちが落ち着いた頃にゆっくりスピーカーから妃那に視線を送ると、
妃那は俯いてぎゅっと手を握り締めていて。
その小さな体にどれだけ抱え込んで、どれだけ我慢していたかと考えた瞬間。
妃那への気持ちが爆発した。
抱きしめたい。
そんな欲求を堪えながら、それでも体が勝手に動いた。
気付けば妃那の手を握り締めていた。
「行くぞ」
妃那を連れ去りたかった。
誰の目も届かないところへ、
2人だけのところへ。
妃那さえいれば何もいらない。
そんなバカみたいな考えを小さく笑って打ち消す。
(けれど、1%ぐらい、本気だったりして)
妃那が、恋しくて愛しくて───
俺は、走った。
(ただ、この手を離したくなかった)
(もう二度と、離さないと心に決めた)