「お前香水変えた?」
唐突にそんなことを言ったのは、俺の部屋で妃那が今日の分のラブレターを読みながら腹筋をする、という器用な行動をしていたときだった。
尋ねながらも確信のある俺の言葉に、妃那は動きを止めて「分かる?」と微笑む。
動くたびに届いていたその匂いだが、
髪の毛を彼女がさらりと掻き揚げると、さらに匂いが俺のところまで届いて鼻の奥をくすぐった。
「妃那にしては珍しいにおいだなと思って・・・っていうか、お前学校には香水着けてかないんじゃなかったのか?」
学校では清純キャラを目指す!って宣言してたろ。
そう言いつつ、俺は香水なんかよりも“妃那が香水をつけてる”ってことに興味があるんだけど。
「キャラじゃないもん!清純だもん!」
「あー、はいはい。で?」
俺は妃那の言葉に耳を傾けるつもりなんてさらさら無い。
まぁ、いつもの自己主張だし、その嘘の含まれた内容にいちいち突っ込んでいられないからだ。
妃那はもーっ!と頬を膨らませつつ、鞄をたぐり寄せて中から化粧ポーチを取り出す。
そしてさらにその中から、小さな小瓶を取り出した。
ピンクのボトルに金の縁、シンプルな形だがふたはリボンの形をしている。
受け取ると、目に付く某有名ブランド名。
思わず「げ」と顔をしかめた。
女の好みに疎い俺でも、さすがに知ってはいる。
それぐらい有名なブランドだった。
俺は眉を寄せたまま口を開く。
「男からの貢ぎ物?」
「ううん。試供品。街頭アンケートに答えたら貰えたの」
「・・・・・・貰うために街頭アンケートに答えた、の間違いだろ」
「そうとも言うかも」
アンケートに回ってる男の人がいて、手元を見たら試供品があったから。
ちょっと近くを通って、目を合わせた時ににっこりと微笑んだだけ。
妃那はそう説明した。
(ちなみに、それだけで雑誌の撮影もカットモデルもアンケートもなんでも出来る、といつも彼女は豪語している)