「拓巳を・・・拓巳をバカにしないで!!
アンタなんかを好きだったあたしがバカだった!!」
勢い良く怒鳴った妃那の声には、いつもの気迫が戻っていた。
その後、瑞樹先輩の彼女との怒鳴りあいを始めたが───俺は、つい笑ってしまった。
これでこそ妃那だ。
そう思って、安堵してしまったのだ。
ピンポンパンポーン
空気を引き裂くマヌケな放送音。
そして流れ出すのは───全ての真実と、このいさかいの終末。
誰がこんなことをしたんだろう、なんて考える必要もない。
ったく、よくやるぜ。海斗も夏乃も。
結局どんなにいい格好しようとしても、あいつらの手がないと俺はどうにもならないようだ。
『俺と 付き合う?』
『あたしは・・・』
妃那は何て答えたのだろう。
ずっと好きだった男に、
手に入れるために頑張ってきた男に、
告白されて。
妃那は、何て答えたのだろう。
まるで盗み聞きしているような気分だったけれど、
好きな女の気持ちは───知りたい、と、思うだろう?
『あたしは 瑞樹先輩のこと好きです』
『じゃぁ・・・』
『でも・・・でも、やっぱり 付き合えません。
瑞樹先輩は憧れの人だけど・・・瑞樹先輩と付き合う前に、あたしの心には別の人がいるんです』
ノイズ交じりに響いた妃那の言葉に、俺は思わず目を見開いた。