「確かに妃那は口は悪ぃし、計算高いし、生意気で高飛車で、

わがままだし、自己中だし、可愛げのかの字もねぇし!

俺もイラついたりうんざりしたりすることは数え切れないことあるけど!

でも!!」

「・・・」

「誰よりも努力家で、繊細で、寂しがりやで、真っ直ぐで、怖がりで、人の気持ちに敏感で・・・

そんな妃那のことお前なんかに分かってたまるか!」



妃那の価値が分かるのは俺だけだ。

分からない奴にこいつを渡す気はねぇし、それ以前にとやかく言わせる気もねぇ。

妃那は、俺の隣にいるべき女で、

俺は、妃那に隣にいてくれなきゃ困るんだ。

妃那は、



「妃那は俺のものだ」



はっきりと言いきった。

静寂の中響いた俺の声は、妃那にどんな音で届いたんだろう。

図々しいと思うのだろうか。

馬鹿な男だと思うのだろうか。

それとも俺もやっぱり不特定多数の男の一人か?

(・・・いや、俺が動くのも計算じゃねぇよな?まさか)

(つい疑ってしまうのは妃那が悪い!)

───なんでもいい。

今は、妃那を守りたい。その気持ちだけで動いていた。



「随分な口を利くんだね、拓巳。

俺が先輩だって分かってる?俺らサッカー部の中で上下関係は避けられないんだぜ?」



俺を見下したように嘲笑って喋る瑞樹先輩。

本当にこんな人だとは思わなかった───過去の自分に嫌気が差す。



「それなら止めるまでだ。

サッカーは好きっすけど、妃那の方が大切だから」

「ハッ、随分格好つけるんだね。そんな風に執着する男って情けなくな・・・っ!!!」



止める暇も無かった。

気付いたら妃那は俺の手をすり抜けて、俺の横を風のように走り去って、

そして、



パァンッ!!



小気味のいい音を立てて、瑞樹先輩の頬を、平手打ち。