妃那、お前は何も悪くない。何も間違ってない。

だから変なこと考えるんじゃねぇよ。

真っ直ぐ足を進めて妃那に近付いていくと、光をなくした妃那の瞳がゆっくりと俺に焦点を合わせた。

たくみ、と唇が音もなく動く。



「お前、ホント男見る目ねぇな」



あぁ、こんなに馬鹿な俺だけど、それでも俺の名前を呼んでくれる。

その泣きそうになるくらいの喜びを必死に押さえ込んで、出来る限りいつも通りに振舞おうと口を動かした。

(あぁ、でもこれはないだろう・・・と後で大後悔することになるのだが)



「いや、違ぇか」



妃那は真っ直ぐに恋をしていただけだ。

何も間違ってなんかねぇ。



「瑞樹先輩のほうに、女見る目がねぇんだな」

「なっ!!」



そう告げながら瑞樹先輩に体を向ける。

妃那は瑞樹先輩の顔が見えないように、瑞樹先輩から妃那を隠すように、

大切な幼馴染を背で庇って。

俺の言葉に、瑞樹先輩は声を上げて顔を歪めた。

俺の名前を呼ぼうとしたのだろう、「た!」と声を上げた妃那の声を黙らせる。



少しくらい、俺にいい格好させてくれたっていいだろ?



妃那を黙らせた手で、そっとそのまま彼女の手を包んだ。

冷え切った、小さくて柔らかい手はかすかに震えていて、ぎゅっと力を込めた。



「こんな見た目も中身もいい女分からないなんて、バッカじゃねぇ?」



吐き捨てるようにそう告げる。

瑞樹先輩は、ただただ鋭い目で俺を睨みつけていた。