「随分な口を利くんだね、拓巳」



静寂の中、瑞樹先輩の声が響いた。

その声はあたしの大好きな柔らかい先輩の声じゃなくって、拓巳を見下すような低い冷たい声。

あたし、本当に“この人”を見ていたんだろうか。

なんて思うような声。



「俺が先輩だって分かってる?俺らサッカー部の中で上下関係は避けられないんだぜ?」



この期に及んで権力と年齢と上下関係にかこつけるみみっちい男。

彼を好きだと言っていた自分が情けなくなってくる。

あたし、本当に男見る目ないかも。

だんだんあたしを占めていく感情は───怒り。



「それなら止めるまでだ。

サッカーは好きっすけど、妃那の方が大切だから」

「ハッ、随分格好つけるんだね。そんな風に執着する男って情けなくな・・・っ!!!」



体が、勝手に動いていた。



「拓巳を・・・拓巳をバカにしないで!!」



気付いたら胸の奥で気持ちが爆発したんだ。

あたしは握り締める拓巳の手をすり抜けて瑞樹先輩の元に行って、

思い切りその頬を、



平手打ち。



「アンタなんかを好きだったあたしがバカだった!!」



ほんとにそうよ。

何なの、このサイテーな男は!!