あたしの頭に過ぎったのは、前に瑞樹先輩の教室に行ったとき見かけたショートカットの先輩。
あの人に向けられた視線の意味をあたしは知っている。
あの人も、瑞樹先輩のことが好きなんだと、すぐに分かった。
きっとそんな人いっぱい居るわけで。
手を伸ばせばあたしに簡単に届くだろう距離に瑞樹先輩がいるから、俯いても先輩の靴が見える。
ただそこを見つめたまま呟いたあたしの言葉に、瑞樹先輩は笑った。
「心配しないで。あの中に元カノとか、もちろん彼女もいないから」
まぁいたら告白もしないけど。
そう言って冗談交じりに笑った瑞樹先輩の言葉にあたしも空笑い。
それでも顔を上げられずにいると、そっとあたしの頬を暖かくて固い何かが包んだ。
「それとも・・・妃那ちゃん、俺のこと嫌いになった?」
「ッ、そんなこと!」
あたしの頬を包むのは瑞樹先輩の大きな手。
不安そうな顔で覗きこまれて、あたしは思わず首を横に振って否定した。
あたし、自分でも分からないんです。先輩。
先輩のこと大好きで大好きで、
ずっと見ていて、
ずっと努力してきて、
こうやって先輩に告白されて、付き合うことを夢見ていたのに。
なのに、
あたし、なぜか───
「俺と付き合う?」
あたしの視界は歪んだから、きっと涙が出てきたのだろう。
その様子を見て瑞樹先輩は何を思ったのか知らないけど、ふっと余裕たっぷりに笑って甘い声でそう囁いた。
体の奥を痺れさせるような色気のある声にゾクゾクした。
そっと頬を瑞樹先輩の手が滑って・・・それがあたしの覚えている最後。
瑞樹先輩の言葉に、
何と答えたのか、
あたしはよく覚えていない。