「夏乃?」
「え?あぁ、ごめんね。なんだかボーっとしてたみたい」
あれから、あたしたちは無事に文化祭当日を迎えた。
拓巳とは変わらず気まずいままだけど、表面上普通に振舞うくらいは出来るようになった。
海斗君と夏乃は何かとあたしを気遣う素振りを見せてくれていたし、
何か察したのか和也君や萩君が「大丈夫?」とあたしのところに顔を覗かせてくれた。
だから、元気にならなきゃって思ったし、事実ここまでエネルギーが回復したのもみんなのおかげだと思ってる。
そんな中、あたしは夏乃と一緒に文化祭を満喫していた。
というのに夏乃はどこか上の空で、今もたこ焼きをぼんやり見つめたまま固まっていて。
あたしの言葉にハッと我に返ると、取り繕うように笑顔を浮かべてみせた。
「夏乃、何か隠し事してる?」
「してないわよ?する仲でもないでしょ?」
それはそうなんだけど、と言葉を渋る。
それでも違和感を感じてしまって、納得できないのだ。
夏乃だけじゃない。最近、海斗君もどこか考え込むような素振りを見せるときがある。
そんな風になったのは───いつからだった?
拓巳でいっぱいいっぱいだったあたしが気付いたのはつい最近、あまり記憶もきちんとしてないのが本当のところだ。
「・・・うん、そうだよね」
あたしはなんとか笑って見せた。
本当は、夏乃が隠し事をしてるのは疑いじゃなくて肯定。
だって、伊達に一緒にいないもの。
でもあたしは夏乃を信じているし、夏乃はこうしてあたしと一緒にいてくれる。
だから夏乃の言葉を否定する要素なんて・・・ないんだ。
あたしはたこ焼きを1つ摘んで口に運ぶ。
「ねぇ、妃那?」
「ん?」
「その・・・最近、瑞樹先輩とはどうなの?」
口の中のタコを噛むのを、思わず止めてしまった。
夏乃から瑞樹先輩の話を振られるなんて珍しい。もしかしたら初めてかもしれない。
もちろんあたしが毎日「瑞樹先輩がね!」とはしゃいでいたからなのもあるけれど。
(それは本当に瑞樹先輩に片思いしてた頃も、みんなに嘘を付きだした後の演技も含めてね)