「何?」
「お前に1個確認しとく」
「何よ」
怪訝そうに俺を見る夏乃から視線を外さないまま、俺はゆっくり立ち上がった。
夏乃の背が俺より低くなる。
それでも、夏乃の放つオーラは変わらず威圧感を放っていた。
だから俺はその強い瞳を真っ直ぐに見つめ、はっきりと言葉にした。
「瑞樹先輩から妃那を奪い返す、っつったらお前怒るか?」
夏乃は、眉1つ動かさずに俺の言葉を聞いた。
ただただ真っ直ぐに、黒曜石のような瞳が俺を捕らえて離さない。
実は内心心臓バクバクだったんだけど、こればかりは譲れないと思った。
『世界で一番大切な女の子が、手の届かないところに行ってしまった』
それは事実だ。
けれど、生憎俺はそれだけで引き下がるほど出来た人間じゃない。
俺が悪い、と諦めきれないし、
欲しいものは手に入れたい、と子どもじみた考えしか出来ない。
きっと妃那には「拓巳がウザイって言ったんでしょ!」と散々怒られると思う。
でも・・・それでもいい。
このまま嫌われてしまっていてもいい。
ただ、自覚も出来なかったバカな俺の間違いを、そのまま認めたくなかった。
ちゃんと、妃那に真っ直ぐ向き合っておきたかった。
きっと俺は16年間、ずっとずっと妃那から逃げていたんだ。
そのまま何もせずに終わらせるなんて───いくらヘタレな俺でも、出来るはずないだろう?
「あれだけ傷つけておいて随分調子いいのね、拓巳君?」
「・・・」
「私、妃那を傷つける人は許せないのよ。知ってる?私がどれだけ妃那を好きか」
夏乃は決して俺から目を逸らさない。
その瞳の奥にあるのは俺への怒りだった。
分かっている。
自分がどれだけ自分勝手か。妃那を傷つけたか。
夏乃が妃那を大切に思っていることも知っている。
そして───
「拓巳君」
夏乃が、俺の気持ちもわかってくれていることだって、
「チャンスは一回だけだからね」
俺は分かっていた。