「あー・・・うん、そうかも」



言われた途端頭に過ぎるのは、見慣れすぎた女の姿。

小さい頃から、ずっとずっと見続けてきた姿。

笑った顔、怒った顔、泣いた顔、拗ねた顔、企んだ顔、悔しい顔、真面目な顔・・・俺の中には、もう妃那しかいなかった。

こんなに嵌ってたのに、本当にどうして俺は気が付かなかった?

想いが溢れて溢れて、その先にあったのは至極単純なたった一言。



『好き』



つーか、夏乃と海斗はずっと気付いてたのか?

多少の恥ずかしさを覚えながら、頭を掻いて小さく肯定する。



「相変わらずヘタレてるわね、認めるときぐらいちゃんと言葉にしなさいよ」



男でしょ。

呆れたようにそう言った夏乃は、表情を変えることなく真っ直ぐにその視線で俺を射抜く。

何も言わなかったけど、海斗の視線も俺の言葉を待っているように思えた。

そんな2つの視線に順番にゆっくり視線を合わせ、それから俺は息を吸った。



「───俺、妃那が、好きだ」



あぁ、認めてしまえば簡単なこと。

妃那を守れない恐怖感も、妃那を見てると苦しくなるのも、妃那に離れて欲しくないのも、

全部全部“妃那を好き”と言ってるようなものじゃないか。

瑞樹先輩と妃那を見るたびに覚えていたわだかまりや痛みだって、

そんなもん───普通に嫉妬じゃねぇか。



「あー・・・なっさけねぇな、俺」



考えれば考えるほど、気付かなかった過去の自分が馬鹿らしく見える。

思わず両手で頭を抱えてしゃがみこむと、上から海斗と夏乃の笑い声が降って来た。