「拓巳は妃那が好きだったんでしょ?女の子として、さ」

「好き?俺が?妃那を?」



やっと出た声は掠れていた。

そうだよ、とでも言うように海斗は今だ微笑んでいる。

「ホントに自覚無かったのね」と夏乃が呟いた。

「なんでそうなんだよ!」なんて騒ぐ気すら起きなかった。



「俺が、妃那を・・・好き?」



言葉にすると、その響きがゆっくりと耳から溶け込み、驚くほどすんなり俺の中に入って来た。

正直言って、驚いた。

それは勿論俺が妃那を好きだったらしい事実もだけど、それよりも、



「妃那、が───」



その言葉を、俺の心も耳も口も、全てが拒否しなかったことに、だ。

妃那が、好き。

あぁ、なんで気が付かなかったんだろう。

言われてしまえば、こんなにも簡単に俺は認めてしまえるというのに。



『拓巳、ちょっと聞いてるの!?』

そのうるさい声、聞きたい。



『ドライヤー、たまにはしなさいよ』

柔らかい髪だって、触っていいのは俺だけだ。



『明日朝7時、起こしてよね』

寝起きの悪いお前の起こし方、俺以外の誰が知ってる?



『奢り。分かってるでしょ?』

たった500円でお前の笑顔が見れるならいくらだって払うさ。



『ねぇ、拓巳』

もっと俺の名前呼べよ。



『拓巳っ』

そう呼んで笑う、悪魔のような性格をした、天使のように可愛い幼馴染。

ずっと、お前が俺の隣にいるのが当たり前だったんだ。



『お前、俺いなくなったらどうするんだよ』

『あたし全然平気!』

一緒にいる。そんな未来を信じて疑わなかったのは、俺の方だった───