「どうして今まで黙ってた私達が言うつもりになったか、ちゃんと考えて」
「・・・」
「拓巳君自信で気付かなきゃ意味がないとか、拓巳君が成長できないとか、
そんな風に貴方のことまで考えてる場合じゃなくなったの」
そうしなきゃいけないくらい、貴方は妃那を追い詰めたのよ。
そう呟いた夏乃の瞳が揺らいだのを見て、俺は夏乃まで傷つけたのだと思った。
夏乃はこの変わった性格故に深い友人があまり出来なかったと海斗に聞いたことがある。
だから妃那は、誰よりも特別で、誰よりも大切なのだと。
その妃那が傷つけば───きっと夏乃も不安になるし、悔しくなるし、悲しくなるんだ。
「ごめんな、夏乃」
素直に謝ると、夏乃は「はぁ?」と顔をゆがめた。
「私、謝れるような覚え何もないわ」
「けど!」
「調子に乗らないで頂戴。だから考えが足りないのよ、拓巳君は」
「・・・」
「はいはい、これは宿題にして本題に入るわよ!海斗、言ってやって」
話を変えるために夏乃はパンパンと手を叩いて場を取り仕切った。
本当は素直に従うつもりはなかったのだが、
俺に背を向けた夏乃の横顔に一瞬涙が見えたような気がして何も言えなくて。
罪悪感でいっぱいになりながらその姿を見つめていると、わざとらしく俺の視界に入った海斗が口パクで「大丈夫」と穏やかな顔を見せた。
「じゃぁ拓巳、言うけど」
───ある程度落ち着いた頃、夏乃にはもう一度謝ろう。
そう心に決めて、今は海斗の言葉に集中することにする。
俺は無言で、それでも縋るように海斗の目を見つめた。
海斗はふふ、と笑うと、衝撃的な一言を言い放つ。
「あのね、拓巳。それ失恋って言うんだよ」
「───は?」
失恋?
・・・失恋。
頭の中で、ゆっくり海斗の言葉を反復する。
恋を失うって言ったって、それじゃぁまるで───
上手く飲み込めずにポカンと海斗の顔を見つめ続けていると、海斗はさらに笑みを深めた。