無力な自分をこれほど呪ったことはない。
両手を見つめながら、呟いた。
妃那の純粋さに甘えて、
幼馴染という名前に縋って、
妃那から離れたにも関わらず、子どものような我侭で妃那の隣にいることを願ってた。
「これ以上妃那を近くに置いておいたら自分の方がダメになる気がしたんだ。
どうせいつかはこうなる。
さっさと俺が身を引いて瑞樹先輩に妃那を渡しただけだろ」
せっかく覚悟を決めた。
なのに妃那が無垢に笑って俺に近付いて来るから。
隠し切れない欲がどんどん溢れてきて。
そんな汚い自分を見せたくなくて、突き放した。
なのに。
「妃那を見てると苦しくなんだよ・・・っ。
それでも妃那が遠くに行くと、やっぱり悔しくて」
そんなの、ガキじゃねぇかよ。
そう呟いて壁を殴った。
自分でも自分がわけがわからなかった。
矛盾する自分がもどかしくて、歯がゆくて、
言葉に出来ない気持ちが次から次へと溢れて、
でも何かの呪いのように頭から妃那の笑顔が離れない。
ぐしゃりと前髪を握るようにかき上げながら、「妃那」と小さく名前を呼ぶ。
その声は今の俺の心のようにからからに渇いていた。
「夏乃」
「なぁに、海斗」
「わら人形返すよ。思いっきり拓巳呪ってやって」
「あら嬉しい、私もそう思ってたのよ」
「───お前ら人の話聞いてたか?」