「拓巳、お前夏乃になんかしたの?」
夏乃の後ろを歩いていると、何故か海斗にまで冷ややかな目を向けられる。
お前がいんのに夏乃に手ぇ出せるかよ。
首を横に振ると、海斗は「ふむ」と言いながら顎に手を当てた。
「なら、妃那に何かしたわけだ」
「・・・」
「あ、図星?図星なんだ。
だよねー、悔しいけど夏乃って妃那ラブだからねー」
海斗はケラケラと軽く笑い飛ばす。
けれど、言うまでもなく俺はそんな気分じゃないわけで、
ただ無言で無表情で前を行く夏乃の背を見つめていた。
すると、「でもね」と海斗は俺の態度を気にする様子も無く言葉を続ける。
「───でも、夏乃ほどじゃないけど」
「・・・」
「俺だって妃那のこと大切に思ってるんだからな。
変な内容だったら夏乃と一緒にお前ぶっ飛ばすよ?」
思わず海斗に目を戻すと、恐怖さえ感じさせるようなまっさらな笑顔を向けられた。
その裏に潜んだ黒さにさっきの夏乃を思い出して身震いする。
・・・さすが、双子。
変なところで似通ったこの姉弟に恐怖心を抱きつつ、
俺は改めて小さくため息をついた。
こうして、夏乃に引きづられるように俺と海斗は、
使われていない空き教室に連れ込まれたのだった。