「あのね、葉月さんにお願いがあるの」
「はい?」
「実はね、ミスコンに出る予定の子が一人入院して出れなくなっちゃったの。
寸前ですごく申し訳ないんだけど、代理で出てくれないかしら」
あたしの美貌を持ってして、代理とはなんだこの野郎。
と内心言っていたけれど、あたしは首を捻った。
「あれ?ステージって1年は出ない規則じゃ?」
そうなのだ。
このあたしが(何度でも強調しますとも!)どうしてミスコンに出ないかと言えば、
この学校にはそんなルールがあるから。
もちろん得票量的にはランクインしていたらしいけれど、(クラスの実行委員の子が言っていた)
その規則故に出れない・・・はずだった。
実行委員の先輩は「ちょっとこっちにも事情があって」と困ったように眉を下げる。
「とりあえず葉月さんに出て貰えるとすごく助かるの。
もちろん、特例ってことで委員会の承認は出ているし、教員会の許可も得てるわ。
ねっ、お願い!」
両手を合わせて頭を下げられる。
あたしは慌てて「頭上げてください!」と立ち上がった。
ここまで来て力が出ない、とはさすがに言ってられない。
「えっと・・・あ、あたしでよろしければ・・・?」
「ホントっ!?」
疑問符交じりにOKの意を示すと、先輩は勢い良く頭を上げた。
それから花が咲くみたいにぱぁっと笑って、あたしの手を握る。
「ありがとう、本当にありがとう!」
純粋に全力でお礼を述べる先輩は、特別可愛かったり特別綺麗だったりするわけじゃないんだけど、すごく愛らしく見えた。
今自分が卑屈になってるからかな。
うらやましいと思って、素敵だなって思って。
───こんな性格だったら、拓巳に嫌われなかったかな、なんて 思った 。