───夏乃に言っちゃおうかなぁ。ホントのこと。
そんな考えが頭を過ぎる。
夏乃なら「馬鹿ね」って言いながら受け止めてくれる気がするし。
でも、断ったって言ったらなんでってなるでしょ?
そうしたら拓巳のこと思い出した、って言わなくちゃいけないでしょ?
・・・ダメ、拓巳のこと考えると凹む。
っていうか、さすがの夏乃でもあたしのこと軽蔑するかも知れない。
好きな人の告白を断る図々しさに。
今日まで嘘ついてたことに。
夏乃まで離れるってことになったら、あたしホントにもう無理になっちゃうよ。
「とりあえず妃那。簡単な仕事貰ってきてあげるから少しは文化祭参加しな?」
「うんー」
やっぱり夏乃にも言えない、と結論付けるあたし。
そんなあたしを必死に励まそうとしてくれてるのが分かった。
(やっぱり夏乃離れていかないでー)
ガタンと椅子の音がして、夏乃が立ち上がったのが分かる。
簡単な仕事ってなんだろうー。セロテープ切るぐらいかなー。
完全に思考能力が低下しているあたしはそんなくだらないことを考えていた。
「このクラスに葉月さんっているー?」
唐突に、自分の名を呼ぶ声が頭の傍で響いた。
───誰?
知らない声に反応して、ゆっくりと顔を上げる。
受付と言うこともあってドアのすぐ傍の机に寝ていたあたしだから、
上げた視線はすぐに声の主とぶつかる。
「あ、葉月さん?」
声の主(バッヂから言って2年生)はあたしを見ると笑顔を見せた。
「はい」と力なく答えながら彼女を観察すると、右腕に紺の腕章をつけている。
どうやら文化祭実行委員会の人らしい。