あたしは何度も「拓巳なんて嫌い」って言ったことあったし、

一昨日もついつい言ってしまった。

けれど、拓巳がこんな風になったことは一度だって無かった。

いつも「妃那」と困ったように笑ってくれた。

だからあたし拓巳に甘えきってた。

自分で聞いても呆れるようなワガママだっていつも叶えてくれたし、

自由奔放なあたしに文句言いながら付き合ってくれたし、

小さい頃からいつも拓巳が折れてくれたから喧嘩だって無かった。



拓巳があたしから離れる、なんて、考えたこと無かった。



「うぅぅ~~~・・・」



どうしよう。

夏乃がいる。海斗君がいる。なのに拓巳がいないだけでこんなにも不安になる。

こんなにも力が出ない。

本格的に突っ伏して泣き声に近いうめき声を出しだしたあたしの頭を、

夏乃がポンポンと叩くように撫でてくれる。



「きっと何か考えがあるのよ、拓巳君にも」

「そうかなぁ・・・」

「妃那がそんなんだからみんな心配してるわよ?」



昨日から完全に上の空で何も手が付かなくなってしまったあたし。

クラスメート達がこっそり夏乃に「妃那、大丈夫?」と聞いているのにはもちろん気付いてた。

だからと言って、空元気が出来るほど今のあたしに余裕はない。



「力出ないなら、瑞樹先輩にでも会いに行ってくれば?」

「みずき、せんぱい・・・かぁ」



瑞樹先輩のことを嘘ついたときは、あんなに元気な素振りできたのになぁ。

と今更ながらに考えてしまう。

友情とか恋とか抜きに、瑞樹先輩より拓巳のほうがずっとずっとあたしの心を占めてたのかもしれない。



「無くしてから気付いてもなぁ・・・」



そんなの、少女マンガの世界だと思ってた。

小さく呟くと、夏乃が驚いたのが分かった。



「無くしたって、妃那、瑞樹先輩と別れたの?」



別れるも何も付き合ってませんとも。

そう思って首を横に振った。(あ、おでこ擦れて痛い)

夏乃は「心配させないでよ」と呆れ口調で安堵の息を付いた。