そっぽを向いて答えると、視界の中の母親は悪戯っ子のようにニヤリと口元に弧を描いてそう言った。

内心思っていたことをズバリ指摘され言葉に詰まる。

母さんは「素直ね」と笑うと、(こういう時の母さんはすごく妃那に似ている)



「それじゃぁお布団持って行くわね」



とまた有無を言わせぬ裏の力を秘めてそう言った。

でも母さんに力仕事をさせるわけにはいかない。



「俺自分でやるから」

「変な遠慮しないの。今だって部屋に妃那ちゃん一人ぼっちなんでしょう?」

「───じゃぁ、オネガイシマス」

「はいはい」



片言に頭を下げると、母さんは満足そうに微笑んでまた雑誌に目を戻した。

その様子を確認してから、リビングを出ようと廊下に続くドアに手を掛ける。

「タク、」と俺を呼び止めるそんな声にピタリと止まる。



「守ってあげなさいよ」



本当に母親には敵わないと思う。

母さんは小さい頃から妃那を見ていたし、いまだに妃那はよくうちに来るし、

きっと娘のように思って、娘のように気持ちが分かってしまうんだろう。

優しいけれど強い声に、俺は少しだけ振り返って、



「んなもん、当たり前だっつーの」



そう言った。

雑誌から顔を上げていた母親はほんの少し目を見開いて、

それから「お父さんの若い頃そっくり」と懐かしむように目を細めた。

俺は最後に「似たくねぇよ、あんな親父」と悪態をついて、

それを最後にリビングを出たのだった。



もう秋も深まってきたこの季節、廊下が少し肌寒い。

キーキーなる階段を一段ずつ上って、真っ直ぐ行けば俺の部屋。

ドアを開ければ妃那がいる。



───・・・。



自分の部屋のドアノブを握ってしばし考え込む。

妃那は一体何に悩んでいるのか。

何に苦しんでいるのか。

俺に何を隠しているのか。

それと同時に思う。

俺は、妃那を守り抜くことが出来るんだろうか。