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それから妃那は泣きつかれたのか寝てしまった。

そっと妃那の体をベッドに寝かせて、俺は部屋を出る。



「母さん」

「あら、拓巳どうしたの?」



リビングを覗くと、夕飯の片付けを終えたらしい母さんがエプロンをしたまま雑誌を読んでいた。

柔らかくおっとりしたこの人は、我が母ながら40代には見えない。



「妃那がまた窓から俺の部屋来てたんだけど」

「あらあら。だからドライヤーの音がしてたのね」



年頃の男の部屋に年頃の女が来てこれだけで済むのもどうかと思う。

けれど相手が妃那だからなのか、

俺が手が出せないと女として分かってるのか、

はたまたこの人らしく何も考えていないのか、

母さんは頬に手を当ててうふふと微笑んだ。



「俺のベッドで寝ちまったんだよ。

多分起きねえと思うから、妃那の母さんに連絡入れといて」



妃那の親御さんはこの時間まだ仕事だ。

家に電話しても出ないだろうと判断した俺は、

妃那の母さんのメアドを知ってる母さんにそう頼んだ。

そう言ったら、母さんはちょっとだけ目を見開いて、

それから「敷布団、持って行くわね」と微笑んだ。

暗黙の「一緒のベッドには寝るな」ということらしい。まぁ当たり前だけど。

(でも同じ部屋で寝るのはいいのか)



「いいよ、俺ここのソファで寝るから」

「妃那ちゃんを一人にしていいの?」

「う」