あたしの元にダンボールを取りに来た瑞樹先輩は、
気付いていないのか気付かないフリをしているのか、
女の子が100%落ちるような甘いマスクであたしに微笑んだ。
その顔にときめきと複雑な気持ちを覚えたのに、それに浸ることはできなかった。
もちろん、そうさせたのはあたしへの視線のせいなのだけれど。
(これが“女の嫉妬”ってやつか・・・)
勉強になったなぁ、
なんてのうてんきに思うあたしは危機感なんてもちろんない。
なんだかんだ図太い自分に苦笑していると、
瑞樹先輩は「あ」と小さくつぶやいて振り返るようにあたしを見た。
「さっき何言いかけたの?」
「いえ、今度で大丈夫です」
「メールか電話、する?」
「直接言いたいので・・・またの機会にさせてください」
瑞樹先輩にはっきりと答え、あたしは「失礼します」と頭を下げた。
ほんの少し距離がある麻里さん(瑞樹先輩を呼び捨てにしていたから年上に違いない)
にもぎこちないながらほんの少しだけ会釈して、
彼女と会話をする間がないようにすぐさまそこから立ち去った。
突き刺さるような視線に、気付かないフリをした。
(「よっし、次こそ!」)
(「何が?」)
(「え?あ、夏乃お待たせ!」)
(「はいはい。で、何が“次こそ”なわけ?」)
(「次こそはちゃんと覚悟を決めようと思って」)
(「「「・・・」」」)
(「え?なんでみんな固まるの?」)