「妃那が来ないことに違和感があるならさ、
たまには拓巳から妃那のところに行ってあげたら?」
「そうね。
考えてみれば拓巳君って思い切り妃那のこと必要としてるくせに、
いつも澄ました顔してるもの」
少しくらいがむしゃらな方が、男ってかっこいいわ。
夏乃はパタンと音を立てて本を閉じると、そう言って目を細めた。
妃那があまりに派手で目を奪われがちだが、夏乃も結構綺麗な顔をしている。
だからその笑顔に、少しだけ目を奪われてしまった。
「あー、今拓巳夏乃に惚れそうになったでしょ!!
駄目だよ、夏乃はあげないから!」
「んなわけねぇだろ」
「っていうか夏乃。
夏乃もがむしゃらな男が好き?俺いつも夏乃に必死だからね!!」
「うん、鬱陶しい。
あ、拓巳君、お茶のおかわり貰っていいかしら」
「お前ら・・・」
人の話も聞かずに好き勝手するのは変わらない。
(一瞬感謝しそうになったと言うのに、それを口にする暇もないっつーの)
はいはい、と言いながら夏乃とついでに海斗のコップを持ちながら台所に行くべく立ち上がる。
「拓巳」
「んだよ?」
「もう、今日すべきことは分かってるよね?」
「───・・・おー」
そう言った海斗に、コップを持った片手を上げて俺は二人に背を向けた。
小さく「サンキュ」って言ったの、届いたか?
(ちなみにお前らが「拓巳と妃那は本当に手が掛かる」って言ってたのは聞こえたけどな!)