女の子が見たら卒倒するぞ、と言いたくなるような柔らかく甘い微笑をその顔に称えて、

海斗は驚きに顔を上げた俺の瞳を捕らえた。

夏乃はさっき取り出した『呪』の本を熟読し出していたけれど、話だけは聞いていたらしい。

小馬鹿にしたような言葉だったけれど、決してその口調に嫌味はなく、むしろ優しさに満ちていた。



「妃那がいないと物足りない、ってちゃんと言ってあげればいいのに」

「・・・言えるかよ」



物足りない、か。

その言葉はひどくすんなりと俺の胸に溶け込んだ。



妃那は女で、俺は男。

それは妃那よりも早く自覚していた自信はあったし、だからこそ覚悟も決めていた。

妃那があのアンケートを機に恋愛を気にしだしてから、

すぐにこんな日が来るだろうという予測だってしていた。

なのに。



「なんでだろうなぁ───?」



いざ、こんな日が───妃那が俺の隣にいない日が来てしまうと、

こんなにも物足りなさを感じる。

それは恋愛感情ではなくて、むしろ家族愛に近くて。

やっぱり俺ってシスコンかも、と自嘲気味に笑った。



「シスコンはね、認めちゃえば楽になるよ」

「シスコンは、一方的に自覚されるとウザいわよ」



そんな俺に正反対のアドバイスをする、頼りになる(言ってやんないけど)友人たち。

その言葉に更に噴き出して、

俺は体を持ち上げてソファの背もたれに首ごとひっくり返った。



「あー、くっそー!認めたくねぇ!!」

「「今更でしょ」」



お前ら気ぃ合うんだか合わないんだか分かんねぇよ。

そう言いつつも、あまり責める気は起きない。

ハッと笑いながら首を立てて二人を見ると、二人も満足そうに目を細めてこっちを見ていた。

そんな顔は、やっぱりそっくりで。