───ダメだ、俺こいつには勝てる気がしねぇ。
つい乗りで突っ込んでしまった後、『呪』と一文字書かれた真っ黒な本を取り出されて頭を下げながら、
立場の弱い自分にばれない程度にため息をついた。
「でも一人で寂しかったでしょ?拓巳」
「そんなわけないっつーの。ただ・・・」
「「ただ?」」
そっくりな瞳で真正面から見つめられ、一瞬言葉に詰まる。
膝についた頬杖の手で口を押さえながら視線をそらし、
俺は言葉の続きを呟いた。
「ただ、ちょっと・・・違和感があるだけだ」
妃那が俺以外の男と遊ぶのは別にまぁいつも通りだ。
いつもと違うのは、俺に会いにこないこと。
朝から一度たりともメールも電話もないこと。
・・・っていうか、もしかしたら今日妃那と顔合わせねぇってこともありえるだろう。
そんなの、下手したら生まれて初めてかもしれない。
「違和感、ねぇ」
俺の言葉を反復して、海斗は声に笑みを含ませた。
どうせまた“シスコン”だ、“幼馴染バカ”だ言うんだろう?
諦めて顔を上げなかった俺に掛かった声は、
「素直じゃないなぁ」
だった。
「───・・・は?」
「俺たちの前ではちゃんとそう言えるのに、どうして妃那には言ってあげられないんだろうね?拓巳は」
「だからヘタレなんでしょう?」