一瞬立ち止まられたことに気が付かなくて、前を歩いたあたしの腕がぐんっと引っ張られる形になる。

どうしたんだろう、気に障ることしちゃったかな。

不安になって名前を呼んだら、「妃那ちゃん」と名前を呼び返された。



「───拓巳とは、幼馴染なんだよね?」

「? はい、そうですけど」



ほとんど兄妹みたいなものだ。

それは自他共に認めてるし。

瑞樹先輩の言葉の意味が分からなくて、頷きながらも首を傾げる。

あたしを見る先輩の瞳はなんとなく揺らいでて、その声は心なしか苦しそうだった。

具合が悪いのかな。なんて心配が過ぎる。



「うん、ごめん。なんでもない」

「なんでもないように見えないんですけど・・・」

「大丈夫。帰るまでにはちゃんと言うから」



一瞬俯いて、それから上げられた先輩の顔はもうさっきまでと同じ綺麗な顔に戻ってた。

すっきりしなくて、思わず口を尖らせてしまう。

「ちょっと忘れて」と言いながら瑞樹先輩は瞳を細めて、

そして空いていた二人分の腕の距離を数歩で詰めてあたしの隣に並んだ。



「妃那ちゃん、お願いごとしていい?」

「なんでもどうぞ」

「今日、拓巳や海斗はもちろん他の男の名前は禁止ね」



突然の言葉に「え?」と瑞樹先輩の顔を見上げる。

そして、さっき逃げたときのように先輩の綺麗な顔があたしの耳元に近づいて、



「───妬いちゃうから」



と小さく掠れた声で囁かれた。

ごめんなさい、悩殺も(省略しまーす(ちょっと、省略したの誰よぉぉぉぉっ!!)