「その子、俺の連れなんだけど」
待ちわびていた声が、聞きたかった声が、静かにその場に響いた。
あぁ?とガラ悪く振り返る二人組の一瞬の隙をついて、腕の拘束から逃れてあたしは声の主・・・瑞樹先輩に飛びつく。
瑞樹先輩は、あたしの背中に腕を回してぎゅっと抱きしめてくれた。
っていざこざに紛れて抱きついちゃったし!
抱きしめられちゃったし!!
心の準備っていうものが!!・・・あんまり必要なかったみたい。てへ。(さすがあたし!)
「先輩~~~っ!!」
「ごめんね、妃那ちゃん。怖かったでしょ?」
いや、それは全然。(だって慣れてるし)
───と言ったらあまりにも可愛げがないから、俯きながら小さく首を振った。
うん。事実だけどこれぐらいなら我慢してるけなげな子に映るでしょう。
「おいおい、てめぇなんなんだ?」
「その子返して貰おうか」
だから瑞樹先輩あたしのこと“連れだ”って言ったじゃない、バカ!!
そう怒鳴りかけた口を慌ててつぐむ。
いけないいけない、今一緒にいるのは瑞樹先輩なんだって。
瑞樹先輩に会って数分、すでに我慢を何回したんだろう・・・今日一日持つのかな、あたし。
そんなことを考えて苦笑していると、スッと耳元に瑞樹先輩の唇が寄せられた。
その感触に一瞬体がビクリと跳ねてしまう。
「せ、せんぱ・・・?」
「今から合図したら走って」
「え?」
小さく囁かれた言葉の意味を聞き返す暇もなかった。
「行こう!」
「え?ちょ、先輩っ!!」
「てめえら、逃げるな!」
「待ちやがれ!!」
繋がれた右手をぐいっと引っ張られて上半身だけ持っていかれる。
慌てて足を回したけど、さすがにサッカー部相手じゃきついですって!
(いくら拓巳と追いかけっこしてるあたしでも一応女なの!)
こうして、あたしと瑞樹先輩の初デートはスタートしたのだった。
さ、先が思いやられるのは・・・気のせい?